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われも湖の子

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Entry#13

おやじの酔談義@利やん

安孫子 邦夫さん(あびこ くにお)

ここは大津駅前のおやじの定番居酒屋「利やん」。
定年退職した元公務員のおじさん二人と卓を囲んでいる。そのうちの一人が安孫子さんだ。私は小ジョッキー片手にもっぱら食べる。この酔客二人のお薦めはどれも確かにうまい!おじさん二人は次々と盃をあおり、ビールを空ける。ええんかいなこんなに飲んで…と横目に見ながらも私はビワマスを口に運び、二人の話しを聴いていた。

大筋は大津をもっと元気にしたいということのようだ。最後は人のせい、政治のせいにしてお開きになるのが常だが、このお二人は違う。年季は入っているがまだまだ意気盛んで、次は何をしようかとやる気がみなぎっている。一般企業のおっちゃんとの違いは私利私欲の少なさ、ガツガツ感や諦念が感じられないことだろうか。公務に就いてきた人が皆そうではないと思うが、お二人は町と住民を繋ぐという立ち位置が今も変わらず、マインドセットされている印象だ。

「そいでも、5時1分になったら電話繋がりませんやん」
私が枝豆を飛ばしながら言うと、
「なに言うてますのん。5時からようやくゆっくり自分の仕事ができたんです。日中は電話やら来客応対やらに追われてできませんわ」
噛んで含めるように役所勤めの日々を語ってくれる安孫子さん。35年の役所勤務で環境や観光、生涯学習などいくつもの部所を勤め上げた。長期にわたる産廃埋め立ての対応では、現場でコワいオジさんたちの恫喝や脅しに毎度身の危険を感じながら公務に当たったという。役所の人がこんな形で町を守ってくれているのかとしみじみしてしまった。オチがある。安孫子さんが命からがら役所に戻り、当時の上司に報告しようとすると、「あ、ごくろうさん」の一言だったらしい。部下を守ろうとしないこの上司の第二の人生はどんなだろうか。

そんな安孫子さんは大津百町の、昔の住所で言えば「札ノ辻つき抜け… 」というところに居を構える。
「私は町家に関しては戦犯ですわ」
「え、なんでですか?」
「うちの町家を合板と集成材の家にしてしもたからです…」
確かに「札ノ辻つき抜け… 」にあったからには町家のなかでも正真の大津町家だったのだろう。結婚して二人の娘さんを育てるなかで、維持管理が大変な町家からモダンな家に建て替えられるのもよくある話しだ。しかしながら、ご自身が町家が似合う年齢になってシクシクと胸が痛むことがあるらしい。

退職してほどなく中央学区自治連合会長も10年務めた安孫子さん、これから新たに何をしたいのか。
「私ね、こども食堂のシェフをしたいんです」と超意外な答えが返ってきた。また、ひきこもりの独り身のおじさんを作らないよう、おじさん対象の料理教室も開きたいという。これもまたまた世のため、人のためである。こういう人が大津を支えてくれてはるんや。
温かい気持ちになる秋の夜だった。

(2022年10月13日 記)

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