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われも湖の子

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Entry#11

「選・和菓子職」はこだわりの半菓半農

山川 誠さん(やまかわまこと)

夏が来ると氷の上の巻き簾に葛まんじゅうが並ぶ・・・手の平にのる小さな世界に季節感を込める和菓子は、慎ましくて美しい日本の文化だ。町の昔ながらの饅頭屋さんが私は好きだ。だが残念なことに、後継者不在や時代の趨勢で好きな和菓子店がここ大津でも一つ、二つと看板を下ろされた。
 そんな中、山川さんが大津の商店街に店舗を構えて早や五年。白木の看板に古材のテーブルが並ぶ喫茶スペースもある「茶菓・山川」は新鮮だった。市内の大店で三十年以上修行を積んだ山川さんの満を持しての開店だった。若い頃は長等公園下にあった寮に住み、黙々と和菓子を作っていた時代もあったという。包装紙こそ違えど、山川青年が作った和菓子を私たちはその頃も口にしていたと思うと不思議な気分だ。
 長年裏方に徹していた和菓子職人が研鑽を積んで「選・和菓子職」となり、ずっと温めてきた想いを次々と形にしているのが今の「茶菓・山川」だ。素材からこだわりを持つ人が自分の店を持つとこうなる。丁寧に作られた商品はもちろん、外装、内装にもこだわりと遊び心が交錯する。インスタグラムの写真を見ると、渋い茶道菓子だけでなく、結構ポップな新作も登場する。女性目線の作品は奥様の発案かと聞くと、
「いえ、すべて自分で考えます」とのお答え。昔、東京で開かれたある和菓子の品評会で山川さんは衝撃を受けたという。西と東で和菓子への向き合い方がかなり違っていた。西日本の職人はどちらかと言えば昔からの技術を踏襲してその技を競う。一方、東の職人は如何に華美に菓子を作り込むかに精魂を傾けていたという。三十数年の間に五感で体得したものがお店に表れており、お客様の反応を間近で見られることが今も一番の喜びだという。
 そんな山川さんは湖西の高島で生まれ育った。
「ずっと屋内に籠って仕事をしているのは苦痛で、自分には土に触れる時間が必要なのです」
お店の高島大納言小豆はすべて農薬不使用の自家栽培で、週三日はガッツリ農業に従事している山川さん。このライフスタイルは開店前に固めた決意であり今後も続けるそうだ。新作もこのワークライフバランスから生まれるのかもしれない。
 今後はどんな展開を目指すのかと山川さんに聞いてみたが、はっきりとは答えてもらえなかった。純朴なお人柄の一方で、内なる野望を感じるのは私だけか(笑)? 今後も丁寧なお菓子作りで私たちを魅了してほしいが、どこぞのテーマパークのようにはせず、まちかどの和菓子屋のしっとりした風情を是非残していただきたい。

(2022年8月1日 記)

「選・和菓子職」はこだわりの半菓半農 山川 誠さん

「村雀」お店のインスタグラムより転載。

高島での耕運の様子。お店のインスタグラムより転載。

小豆。実るまでが大変。お店のインスタグラムより。

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