近代表具に込める思い
高居茂雄さん(たかいしげお)
高居紙機さんと出会ったのは2年前。ネット上にあった大津市の地味な会社紹介リストだった。
「載せていたことすら忘れており、高橋さんが7年で初めての問い合わせです」が高居さんの第一声だった。当時私は、表装やデジタル化の技術を持つ表具師さんを探していた。長年しまい込んでいた父親の絵をピシッと仕立ててもらったときは胸が熱くなった。以来、和堂の大津絵だけでなく祖父の絵、縁あって入手した絵もいろいろな体裁に仕上げてもらっている。
京都伏見生まれの高居さんは宇治に暮らしている。父上の跡を継ぎ、工場のある大津市田上で長年仕事をしている「湖の子」だ。子供の頃からモノを作るのが好きだったという。夜間大学では電子・電気関係を専攻し、昼間は父親の手伝いをした3年間。卒業後、印刷機の検査機を扱う企業に入社し、仕様打ち合わせから設計、実際のエンジニアリングまでトータルにこなすサラリーマンを12年する。仕事は楽しかったが自分でやれる事に限界を感じ始めたとき、「親父はいつも楽しそうに仕事をしている」とふと気付く。
2003年の春、意を決した高居さんは「会社を辞めて跡を継ごうと思うんや」と父に切り出した。しかし、現役バリバリの親父さんは「そうか、そんなこと考えてるんか・・・」と暖簾に腕押しの反応だった。だがその夏、父上は突然昇天してしまう。引継ぎ期間ゼロのままいきなり尺寸の世界に飛び込むこととなる。表具の部分は父上が使っていた機械の操作方法からしてわからず、文字通り手探りで始めたという。サラリーマン時代に培ったデジタル処理技術には自信があり、その後ジークレー印刷も始めた。
高居紙機には先代が築いた表具機械化の先駆者としてのノウハウがある。そこに、デジタル機器を使いこなせる強みが加わり仕事に厚みもでき、海外の顧客もできた。あるシーズンには展覧会用に400本もの軸表装を手掛けたという。ご本人は機械化のメリットとデメリットをよくわかっており、伝統工法もリスペクトする。それでも、お客の要望に応えて納品しその満足げな顔を見ると、「他所では無理やぞ。どや?」とマスクの下でつぶやく。この仕事の喜びは?と聞くと「最初から最後まで見届けられることですかね」と間髪を入れず職人気質な答えが返ってきた。
大津絵仏画。金ピカの表装軸から作品をはがして裏打ちし卓上屏風に仕立てた。
写真作品を掛け軸に。作品部分は和紙にジークレー印刷を行い、布地部分についてもデジタル捺染でこの掛軸専用に製作されたものを使用。
古物修復。傷んでいる作品の裏打ちをすべて除去して、再度裏打ち。周りの布地はすべて新しい物を使って新調。